イラストの発注を請けたとき、「キャラを背景になじませてください」というフィードバックをもらって困ったことはありませんか?
キャラと背景がなじまない原因のひとつとして、キャラクターと背景がバラバラの色味を持っていることが考えられます。
例えば、背景は夕焼け空なのに、キャラクターや物体の色は晴れた昼間のようにローカルカラー(固有色)がそのまま表現されているという、ちぐはぐな状態です。
時間帯と色の関係を知ることは、上に述べたようなイラストのぎこちなさを解消する手がかりになります。また、各時間帯の代表的な色をカラースキームにまとめましたので、イラスト制作の際に役立てていただければと思います。
なぜ物体やキャラクターは環境の色に影響を受けるのか
時間帯によって空は様々な色に変化します。それは太陽の角度によって、人間の目に届く光の色が変わるからです。 その変化に伴い、光源色、環境光、影色も変化します。
人物や木、建物などの物体は、変化した光源の色が反射して私たちの目に見えるようになるので、ローカルカラーが光源色に影響を受けます。また、影色は環境光の反射を受けるため、環境光の変化も頭に入れて描かなければなりません。
空の色が変わって見える仕組み
地球は球体なので、太陽の光がその地点に差し込む角度によって、空の色が変わって見えます。
昼は太陽の光が地面に対して垂直方向から入るため、大気層に散乱されやすい青色の光線でも届くのですが、朝や夕方は、地面の斜め横方向から光が差し込むので、光は長い距離を移動することになります。
その結果として青い光は大気中に散乱され、人間の目には黄色や赤い光だけ届くようになります。よって、太陽光が旅をする距離は西と東の方角でも違うため、空の色が変化する時間帯では特に、西の空と東の空の色は違って見えるのです。
イラストにおける色の選び方例
次は、時間帯を正午、朝、夕方、日没、マジックアワー、夜の6つに分類し、それぞれ同じモチーフの見え方がどう変わるか実際に例を示し、なぜそうなるのかを解説します。
正午・昼間
光源:太陽
光源色:白
環境光:青
影色:暗い青
影の長さ:短い
こちらの光源色や影色ではローカルカラーがほぼそのまま表れるため、一番描きやすい時間帯です。
太陽の光が垂直方向から降り注ぐため、太陽光は白、空は青色になります。また、影は直下にしか存在しないため、影が足元にできます。
影の色が青いのは、影部分に空(環境光)の青い光が反射しているからです。
昼間の主な色
朝
光源:太陽
光源色:白味の黄色、または淡い橙色
環境光:やわらかい青色、太陽周辺は黄色から青へのグラデーション
影:青
影の長さ:長い
上図は日の出後から少し時間が経った、朝早い時間の表現です。物体が光源に影響を受け、やや黄色気味に染まっています。正午と朝の色味のバランスで、午前(または午後)の時間帯も描き分けることも可能です。
朝の主な色
夕方
光源:太陽
光源色:黄色またはオレンジ
環境光:赤、オレンジ、黄色、紫のグラデーション
影:赤みの紫
影の長さ:とても長い
太陽が水平線に近くなる程、その周辺の空の赤味が増し、環境光も赤くなります。
一方東側(太陽の反対側)の空は、紫色に変化をしているため、その環境光の反射により影が紫味を帯びます。 光の入射角が横になるため、影もその分長くなります。
夕方の主な色
マジックアワー
光源:空全体
光源色:黄色、または淡いピンク、淡い赤紫、淡いブルー
環境光:淡いピンク、淡い赤紫、もしくは淡いブルー
影:淡いブルー
影の長さ:存在しにくい、または物体全体が影
マジックアワーとは撮影用語で、日の出直前、または日没後数十分のしかない薄明の時間帯のことを指します。
光源となる太陽が地平線(水平線)のすぐ下に存在することで、ほぼ空のみが光源の状態になります。
よって、光と影の差が少なく、物体も柔らかでカラフルな色調に見えます。
太陽が沈んだため、光の強さも弱くなり、全体が薄暗くなります。
マジックアワーと一口に言っても、夕焼けに近いもの、北欧の白夜のように幻想的なものまで、様々あるので、たくさんの色で遊ぶことも可能ですが、明るく鮮やかな色を使いすぎると、わかりづらい絵になってしまうので、気をつけて下さい。
マジックアワーの主な色
夜
光源:空全体、月、灯り
光源色:非常に暗い青
環境光:非常に暗い青
影:黒
月を含め空からの光が非常に弱い時間帯です。
人間の目は明暗を見分けることを重視するため、暗いところでは色数が極端に少なくなります。ものの形状もはっきり見えず、遠景などは特にシルエット化します。
灯りや電球があれば、その光源の色を反射するため色数が増えますが、それらが存在しない場合、黒、灰色、青だけの世界だと考えたほうがいいでしょう。
夜の主な色
補足: そもそも、朝焼けと夕焼けは違う色なのか
空の色は太陽の角度によって変化するので、朝焼けと夕焼けをイラストで描き分けるのは難しいです。
ただ、多くの人が朝は太陽がある程度昇った直後を早朝、沈む瞬間を夕日を思い浮かべるので、こちらの記事でも便宜的に朝、夕などと記していますが、上記の「朝」の色は夕方直前の午後に、「夕方」も朝焼けと置き換えることも可能です。
まとめ
いかがでしたか? 今回の記事を通して、すこしでも色によって時間帯を表現しやすくなれば嬉しいです。
自然界の色はもっと複雑な要素で成り立っていますので、それらを学ぶとさらに表現力が広がります。
著・画 ユーコ・ラビット
ゲーム会社にてイラスト制作業務を担当しながら、フリーランスのイラストレーターとして活動中。書籍やCD用のカバーイラストやPhotoshop等を使ったCGイラストのメイキング記事の執筆などを行う。
参考資料
[1][Solar Spectral Irradiance: Air Mass 1.5]
[2][空の色はなぜ時間帯によって変化するの?]
[4][影の色と強さの表現「夕」]