100年前のイラストレーター、アルフォンス・ミュシャはなぜ未だに日本で人気なのか?

100年前のイラストレーター、アルフォンス・ミュシャはなぜ未だに日本で人気なのか?

100年前に活躍した海外のイラストレーターが、近代の日本のクリエイター界に多大な影響を与えています。 その名はアルフォンス・ミュシャ。

 

漫画『電影少女』コミックスの表紙、ライトノベル『ロードス島戦記』のイラスト。さらにはアニメ『GOSICK』のオープニング映像や『新機動戦記ガンダムW』のパッケージといったように、アニメ漫画業界でもリスペクトされているのが分かります。 

 

このミュシャの展覧会が国立新美術館(六本木)にて2017年6月5日までの期間で開催されています。入場者数は3月18日の開催から約1ヶ月半で30万人を突破しており、まだまだ勢いが止まりません。 

 

今回は、100年前に活躍したイラストレーター・ミュシャとその日本での人気の秘密を知ることで、”見に行けなくても楽しめる「ミュシャ展」イベントレポート”という形で情報をお届けします。

 

▼目次

100年前のイラストレーター、ミュシャってどんな人?

 アール・ヌーヴォー時代

どうして日本人はミュシャが好きなのか?

「ミュシャ展」の見どころ

「ミュシャ展」開催概要

100年前イラストレーター、ミュシャってどんな人?

アルフォンス・ミュシャの肖像

 

アルフォンス・ミュシャは1860 年に当時のオーストリア帝国の都市モラヴィア(現在はチェコ領)に生まれ、1800年代末から1900年代初頭にかけて活躍したイラストレーター・芸術家です。

 

当時フランスで流行していたアール・ヌーヴォー(“新しい美術”という意味)と呼ばれる作風で、ポスターをはじめ雑誌表紙イラスト、油彩画、彫刻など数多くの芸術作品・商業作品を手掛けました。

 

アルフォンス・ミュシャ「ジスモンダ」と「ラ・ナチュール」

アール・ヌーヴォー時代

日本人にとってミュシャの作品でなじみ深いものといえば、初期のアール・ヌーヴォー時代のポスターです。

 

これらはリトグラフと呼ばれる版画の一種で、ミュシャの作品ではマットな色使いと太い輪郭線、美しい女性の姿とそれを取り囲む模様がとても印象的です。

アルフォンス・ミュシャ 4つの花(左から)「カーネーション」「ユリ」「バラ」「アイリス」

 

これは「4つの花」と題された連作(の一部)ですが、他にも「四季」「芸術」「4つの星」「黄道十二星座」など、女性の美しい姿をモチーフに様々なテーマのポスター作品を数多く手掛けています。

 

ポスター以外にも、壁画などを見ても現代の私たちのセンスにもぴったり合う作品ばかりです。

どうして日本人はミュシャが好きなのか?

ミュシャという名前をこれまで知らなかった人でも、ミュシャの作品やミュシャスタイルの絵はどこかで見たことがあったのではないでしょうか。

 

たとえば、ライトノベル『ロードス島戦記』やTVアニメ『機動新世紀ガンダムW』、漫画『電影少女』など、アニメ漫画などの分野でも数えきれないくらい多くの作品でミュシャスタイルのイラストが描かれています

『キャラクタースリーブシリーズ ロードス島戦記 森の乙女ディートリット』

(引用元: Amazon (C)2014 水野良・グループSNE・出渕裕) 

 

『新機動戦記ガンダムW DVD COLLECTION NUMBER Ⅰ』

(引用元:バンダイビジュアル (C)BANDAI VISUAL CO.,LTD.)

 

ミュシャスタイルは多くのアニメ・漫画ファンやクリエイターにも愛されているんですね。

 

では何故ミュシャスタイルはこんなにも日本人に好かれるのでしょう? それはアール・ヌーヴォーの起源に理由があります。

 

アール・ヌーヴォーという言葉は、フランスのとある美術商が開いたお店の名前「アール・ヌーヴォーの店」に由来しています。

 

この美術商が大の日本芸術ファンで、主に取り扱っていたのが日本の浮世絵版画や工芸品、それに影響を受けた美術家たちの作品だったのです。

 

当時ヨーロッパでは「ジャポニスム」という日本テイストのブームが起こっており、ゴッホやモネ、ロートレック、ロダンなど多くの芸術家が日本の美術様式に影響を受け、アール・ヌーヴォーもその流れの中で誕生しました。

 

彼らにとって、日本風のスタイルはまさに「アール・ヌーヴォー=新しい美術」だったわけですね。

 

そのため、ミュシャを含めたアール・ヌーヴォーの作品の特徴である「植物的な曲線、文様」「左右非対称の構図」などは、現代のイラストに生きる日本の美術様式から着想を得たものと言われています。

 

日本人がミュシャの作風に惹かれるのにも、そういった起源が影響しているのかもしれません。

「ミュシャ展」の見どころ

今回のミュシャ展の最大の見どころは、なんといってもチェコ国外初公開となる「スラヴ叙事詩」です。

 

「スラヴ叙事詩」は、叙事詩(神話や英雄譚などを語り継いだ物語)の名の通り、スラヴ民族の歴史を20枚の巨大な油彩画で表現した、ストーリー性の高い作品群です。

 

ミュシャが自分自身の起源であるスラヴの歴史を語り継ぐため、晩年の16年間をかけて描きました。

アルフォンス・ミュシャ「1:原故郷のスラヴ民族」

 

「原故郷のスラヴ民族」では、襲い来る他民族の姿を背景に、手前におびえるスラヴ人の男女、右上には祭司と戦士、少女の姿が大胆に配されています。

 

右上の3人はいわゆる「イメージ図」で、そのシーンに実在していないことを表しています。

 

アルフォンス・ミュシャ「17:聖アトス山」

 

「聖アトス山」では、画面上方に浮かぶ天使たちの輪郭線がオーラのように光り、背景から差し込む光と相まって天上界の神秘的な雰囲気を醸し出しています。

 

このように、100年以上前の作品でありながら、輪郭線や光の使い方、レイアウトなど、現代のキャラクターイラストに通じる表現がいくつも見られます。

 

イラストを手掛ける方にとっては学ぶことの多い作品群と言えるでしょう。

 

また、1枚1枚が幻想的であるだけでなく、高さ4メートルから6メートル以上と非常に大きいため、会場で絵を前にすると、ファンタジーの世界に没入した感じさえ覚えます。

 

今回の展示では、「スラヴ叙事詩」だけでなく前述のアール・ヌーヴォー時代の作品も数多く展示されている、大変充実したものになっています。

 

その中でも「スラヴ叙事詩」は、今回を逃すと日本国内で見られる機会はもうしばらくないかもしれませんので、気になった方はこの機会を逃さないようにしましょう。

「ミュシャ展」開催概要

期間:2017年3月8日(水)~ 6月5日(月)※火曜休館

場所:国立新美術館 企画展示室2E

   〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2

観覧料:1,600円 ※各種割引あり/中学生以下無料

詳細URL:http://www.mucha2017.jp/

 

著・いしじまえいわ

アニメライター / アニメ産業研究家 / SOS団東大支部団員

アニメ関連の記事の執筆の他、インターネットラジオ「植田益朗のアニメ! マスマスホガラカ」(文化放送)の番組協力など、アニメ関連メディアで幅広く活動しています。

URL|http://ishijimaeiwa.jp/

Twitter |https://twitter.com/ishijimaeiwa