不死鳥のように蘇ったフランス漫画市場物語 後半
2021.11.16
こんにちは!フランスの漫画専門出版社Ki-oon(キューン)のキムです。コロナ禍の中、日本の漫画市場が潤い、デジタル市場が特に凄まじい成長を見せました。さて、デジタル市場がほぼ皆無であるフランスではどうでしょうか?
去年、フランスでは日本よりも厳しい状況に陥り、ロックダウンが3回も実行され許可証なしでは外出できず、食品以外は買い物できない時期が数ヶ月間も続きました。
そんな中、勢いを増していた漫画市場は2020年頭のロックダウンの衝撃により、打たれた鳥のように急落下し、地に落とされました。しかし、2020年末に、まるで不死鳥のように蘇っただけではなく、更に力強くなりました!何が起きたのでしょうか?
▽目次
ロックダウンクライシス
コロナ禍の中でもデジタル市場がなぜ拡大しないのか?
本と近所の書店を守ろう!市民的な運動の誕生
結論:漫画を始め、本はソウルのフード
2020年頭、「コロナウィルス」という単語をまだ聴き慣れていなかった年頭に弊社は「呪術廻戦」を発売し、他社では「ドラゴンボール超 – ブローリー」、「五頭分の花嫁」や「チェインソーマン」など、ビッグタイトルが多く刊行され、良いスタートを切りました。
しかし、3月中旬に第一次ロックダウンが発表され、状況が一変しました。3月17日から5月11日までフランス人はほぼ外出できなくなり、「最低限必要なモノ(つまり食品)」の販売所以外、全商店が休業させられました。言い換えれば、二ヶ月間に渡り、書店が機能を失いました。
その結果、漫画の販売部数が急落下し、ロックダウン前の総合販売部数は月30万部もあったのに8万部程度に下がりました。フランスのデジタル漫画市場はまだ非常に狭いので、紙の単行本の通販購入が急増し、アマゾンのような大手通販会社がかなり潤う時期でした。
デジタルに関して、フランスと日本の状況ではだいぶ違います。日本では緊急事態宣言中に、既に大規模になっていたデジタル漫画市場が更に拡大し、2020年に+32%(+千億円)という記録的な成長を遂げ、現在はデジタル版はもはや漫画市場の半分以上を占めています。
それに対し、フランスはまだ紙の単行本中心で動いており、弊社がフランスで刊行させて頂いている大ヒット作品「僕のヒーローアカデミア」でさえ、ロックダウン中でも電子版各巻は月数十DLにとどまりました。ちなみに紙の単行本ですと、2020年だけで累計は120万部を超えており、著しい差です。
その理由として、まず文化的な背景が挙げられます。つまり、本というオブジェへの拘りが強く、その所有自体は個人のアイデンティティ作りにつながります。
また、全国に3300店もの個人書店が存在しているおかげで、小さな町でも簡単に単行本を手に入れることができます。
更に、漫画の場合は残念ながら20年前から蔓延る海賊版がデジタル市場の広がりの障害になっており、「デジタル=無料であるべき」という考え方が根強くなったせいもあり、値段を1/3安くしても、読者はデジタル商品のためにお金を出すことは滅多にありません。
唯一広まっている正式な電子漫画は、無料コンテンツの多いウェブトゥーンであり、スマホでの読書に慣れた若い世代はその縦スクロール式のコミックにますます魅了されています。
しかし、販売といえば紙の単行本が圧倒的に多いのが現状です。
▲Webtoon.com、Verytoon.com、Delitoon.comなど、ウェブトゥーンが読めるウェブサイトが近年増えています。
ロックダウン中に通販でのセールスが多少あったとしても、2020年の+18% の漫画市場の成長率の説明がつかないので、年内の動きをもっと詳しく分析してみます。
まずはお金の流れから考えましょう。3月中旬から5月中旬までの第一次ロックダウンが解除されても旅は無論、外食などがまだ不可能な中、それに伴う消費が減る分その貯金を漫画購入に費やすことができます。
ファン達はロックダウン中に我慢して買えなかった漫画を一気に購入した結果、ロックダウン直後に漫画の販売がコロナ禍前のレベルを上回り、週30万部から40、50万部まで飛び上がりました。
また、休業期間中に近所の書店という当たり前の存在がどれだけ大事なのかが切実に感じられたようで、フランスで国民的な運動が起き、書店の前で行列ができるという驚きの現象が見られました。
そもそも、書店が休業させられること自体が議論のタネとなり「最低限必要なモノ」に本もカウントされるべきではないかと政治家、インテリ、作者などが訴え出したました。「食品」は体の栄養源であると同様、「文化」は精神の栄養源なのです。
確かに、漫画やアニメのように現実逃避をさせてくれる作品は、この不安だらけの世界で強く求められます。
そういう背景があり、第二次ロックダウン(10月30日〜12月15日)の際に、事前注文・書店での引き受け制度(クリックアンドコレクト)が一気に普及したおかげで、販売レベルが前回のロックダウンと比べると割と維持されました。
更に、11月・12月中に厳しい制限が実施されていたにも関わらず、クリスマスやお正月のプレゼント購入時期に漫画が爆発的に売れ、その漫画欲求に救われた書店たちは赤字を免れました。
▲フランスの漫画市場(紙のみ)の販売部数推移表です。赤い部分はロックダウン時期を示します。第一次ロックダウン中の著しい落ち込みと、その後のリバウンドと年末の漫画ブームの強さがわかります。
危機の中、守るべきものが明らかになります。フランス人の多くにとっては、それはリアル書店と紙の本です。ロックダウンが続いても、デジタル市場がもっと広まるかと個人的に考えていましたが、ネットでの無料閲覧数は別として、販売部数で言えばほんのちょっとしか伸びませんでした。
海賊版問題の深刻さを表す反面、紙の単行本への強い拘りを改めて実感させてくれた一年です。もっとも、ウェブトゥーンの影響もあり、デジタル漫画も今後普及する可能性があります。
次回の記事では、2020年の漫画市場を支えた漫画タイトルと、2021年頭からの市場の新トレンドをご紹介した上で、コロナ禍に伴った変化の分析を完成させましょう。是非読んでみてください!
▽記事後編はこちら
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電話番号:03-4500-6668
Ki-oonの東京オフィス代表キム・ブデンについて:講談社の国際事業局で四年半働いた後一旦帰国、三年半フランスの漫画出版社・PIKAの編集長として勤め、2015年の10月からKi-oonの在日オフィス代表として日本に戻り、現在に至る。
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