VR空間で可愛い秘訣をコトブキヤとMUGENUPに聞いてみた。(前編)
2021.01.15
ホビーで有名なコトブキヤからは、フィギュアやプラモデルに加えて、VRChatなどで利用可能な可愛い3Dアバターもラインナップされています。そして2022年6月16日、新たなオリジナル3Dアバター「シガラキ」が追加されました!
「いちあっぷ」を運営しているMUGENUPは、2Dデザインや3Dモデル制作などでシガラキの制作に参加。
本記事ではシガラキの関係者やクリエイターにインタビューを実施し、シガラキのコンセプト設計から2Dビジュアル制作、3Dモデルの完成までの流れを、開発秘話や設定資料などを交えてご紹介します。
▼目次
△左から3Dディレクター&書店員&大首領&合成獣&企画者、大集合!
――それではみなさん、まずは自己紹介をお願いいたします。
飯嶋 瑞生(コトブキヤ):
コトブキヤ 経営企画室の飯嶋です。シガラキを含む、コトブキヤのアバター関連製品すべての企画から販売までの取りまとめをしています。
以前、「いちあっぷ」でも取材していただきましたが、あちらは現実用のアバターとなります。
木下 洋輔(MUGENUP):
MUGENUPのCGディレクターの木下です。シガラキもそうですが、「アバターちゃん」や「サバンナストリート」で3DCGモデリング関連のディレクションを担当しています。
今日のアバターは、「サバンナストリート」のイリオをMUGENUPカラーにカスタマイズしてみました。
エーデル大首領(悪役結社ヴァリアール):
VR怪人組織「悪役結社ヴァリアール」が首魁、生ける鎧(リヴィング・アーマー)のエーデル大首領だ。
我々は、VRChatをはじめとするVR世界において、我々のような異形、怪人のアバターを使う者を増やしていくために日々様々な活動を展開する、VR悪の組織である。
ウサガエルス(悪役結社ヴァリアール):
ヴァリアールは、要するに美少女でいっぱいのVR SNSに、怪人やメカみたいなカッコいいアバターを増やしたいね! って感じの組織ッスね。怖くないので、ぜひ公式サイトを見て欲しいッス。
シガラキにはコンセプトやギミックの発案、広報関連で協力したッスね。あ、自分は技術主任および雑用怪人のウサガエルスッス。今日はどうもよろしくお願いするッス。
岩田 洋樹(文藝イシュタル/Studio Ishtar):
Studio Ishtar の岩田です。日頃はセレクト書店喫茶「文藝イシュタル」の店主として書籍やオリジナルコーヒーの販売をはじめ、様々な業務を行っていますが、シガラキやコトブキヤさんのアバターでは3Dモデルのセットアップ周りを担当しています。
――まず、これまで様々な可愛い3Dアバターを展開してきたコトブキヤのアバター製品ですが、シガラキに関してはどういった流れで誕生したのでしょう?
飯嶋:
2019年に「アバターちゃん」の販売をスタートした時点で、可愛いものだけでなく様々な方向性のアバターを展開する必要性を感じていました。
上司からも「何が売れるか分からない世界だから、もっと幅を広く持たせた方がいい」と言われていたのですが、ではどういったアバターを出すべきか、社内から具体的なコンセプトを打ち出せないでいました。
――その時点では新アバター企画にはどんなイメージを持たれていましたか?
飯嶋:
VRアバターは可愛いデザインが好まれる傾向があり、お客様アンケートからもそれは明確に感じ取れるものでした。
一方で、コトブキヤに対してお客様からはメカを扱ってほしいというメッセージもいただいておりました。
コトブキヤはホビーメーカーですから模型文化と親和性が高い。コトブキヤらしいアバターも出すべきだいうわけです。
そこで様々な方にアバターのニーズについてご相談をしていく中で出会ったのが、さかずきないぎさんという方でした。
エーデル大首領:
ああ、我がヴァリアール構成員の一人だな。
――たまたま知り合ったビジネスパートナーが悪の手先だったんですね。
飯嶋:
さかずきさんのことは、SNSで変形メカなどの制作物について見聞きしておりましたが、VR内で話をする中で、実はヴァリアールの構成員だということを知りました。
それをきっかけにヴァリアールさんを知り、新しいアバター企画についてぜひご意見を賜りたいと思って、VRChat内で悪の拠点に出向いてコンタクトをとったのが、皆さんとの最初の出会いでした。
ウサガエルス:
悪への落とし穴は思いがけないところにあるもんッス。世の中怖いッスね。
△コトブキヤ飯嶋さんとヴァリアールとの出会いから「シガラキ」が生まれる。
――コトブキヤさん側にそういった背景があった一方で、ヴァリアールさんがコトブキヤさんの新アバター作成に協力することを決定した理由は何だったのでしょう?
エーデル大首領:
「異形」「人外」といった要素を備えたアバターを、高いネームバリューと製品品質への信頼をもつコトブキヤの力を借りて世に送り出すことができれば、我々の野望実現にまた一歩近づくことができる。
それが共同開発の提案に乗った理由だ。すべては、異形に満ちたVR世界を手にするためなのだ。ハハハハハ!
――自らの目的のために利用してやる、ということですね! では目的について、詳しく教えてください。
ウサガエルス:
ヴァリアールの目的は、VR世界に怪人やカッコいいアバターを増やし、俺達みたいなのが大手を振って歩けるようにすることッス。
俺達が活動を始めた2018年頃は、人間型じゃないアバターのユーザーは少なかったッスからねー。
――確かに、誰もかれもが美少女アバターってイメージでした。
エーデル大首領:
うむ。仮想現実という、自らの姿を自身で選択できる新たな世界に飛び込んだのだ。何も、人間の姿形に囚われる必要はあるまい。
だが、周囲が人間アバターユーザーばかりのコミュニティに属していては、自身もそれに倣っておくのが得策だと考えてしまう者も多い。
故に、ヴァリアールでは「悪役結社」というコンセプトの基、怪人や怪獣、メカなどの異形アバターが活躍するコンテンツを次々と発信することで、「VR世界=人間のアバターで楽しむもの」という先入観を破壊する活動を展開しているのだ。
ウサガエルス:
人間で占められていた領域を怪人で塗り替えていく、これが俺達の侵略活動ッス!
――素晴らしい目的ですね。では、シガラキのコンセプトを決める上で特に注意した点も、やはりそこでしょうか?
エーデル大首領:
無論だ。我々が最も注意深い視線を向けたのは、我々ヴァリアールとコトブキヤとの共同開発で生まれたアバターが「単純に可愛らしいだけの、悪らしい要素を持たないアバター」としてリリースされてしまわぬようにという点だ。その観点から都度意見させてもらった。
ウサガエルス:
せっかくのコラボなのに普通の美少女アバターでは意味ないし、ヴァリアール構成員も異形アバターに興味のある人も、みんなガッカリッスからね。
――では実際にシガラキのコンセプトはどのように絞り込んでいったんでしょうか?
エーデル大首領:
ヴァリアール構成員全体から大量のコンセプト案を集め、怪議(注:結社では会議の事をそう呼ぶ)の場で検討を重ねた上で最終決定した。
ヴァリアールに所属する数多くの怪人構成員のうち、およそ30名ほどが怪議に参加、「悪らしい不気味さとクールさを持つ存在」という視点を軸に据えてたどり着いたのが、「シガラキ」の原型となる「戦闘アンドロイド」というコンセプトであった。
ウサガエルス:
こういう美味しい話には身を乗り出して乗ってくる構成員が多いッスから、あーでもないこーでもないのお祭り騒ぎだったッスよ!
コンセプトのアイデアもいっぱい出してくれたッス。それに元々コトブキヤのファンだった構成員も多かったッスからね。
――悪の組織も合議制なんですね。
△VR空間に存在する本拠地に集い、議論を交わすヴァリアール構成員たち。シガラキのコンセプトについての検討も、このようになされたのだろうか……。
――シガラキはメカニカルなイメージもありつつ、美少女要素やタヌキ要素も見受けられますが、これらの要素はどのように付与されていったんでしょうか?
飯嶋:
美少女要素は私から提案しました。アンケートのデータでは、やはり美少女アバターのニーズが圧倒的ですので。
エーデル大首領:
そういったコトブキヤの要望を盛り込みつつ、美少女ではありつつもマスクの装着により、メカニカルで不気味な雰囲気に様変わり出来るという二面性を与えることで、十分な「悪」らしさを付与することを考えた。
この二面性というアイデアは、かなり初期の段階からあったな。
ウサガエルス:
そうッスね。それとタヌキ要素はウチから出たッス。我々に求められていたのは文章によるコンセプト案までだったんスけど、会議の場にデザイン案のイラストまで描いて持ってきた構成員が何人かいたッス。
そのなかの一人が滅茶苦茶にタヌキ推しで、ゴリッゴリに熱量が高くて!これがその時の資料ッス。本当は極秘資料だけど、みんなにだけ見せてあげるッス。
△特別に見せてもらったタヌキ型アンドロイドの極秘資料。
――この時点で既にシガラキのメカ×美少女×タヌキというイメージができていますね。
エーデル大首領:
アタッチメント要素やマスクのギミックなどは、この原案の頃から既に見られるな。ランドセルを背負っているのは「悪の属性を持つタヌキ」という要素から昔話『かちかち山』が連想されたことが由来だ。
「酒」と記された瓶をランドセルに装備しているのが見えるが、これは信楽焼のタヌキのイメージだな。
飯嶋:
ビジュアルが魅力的なのはもちろんですが、タヌキは群れをつくりますし、装備している徳利とお猪口でいつでも酒盛りを始められるなど、「みんなでシガラキのアバターを着て集まったらおもしろいよね!」というVRコミュニケーションの楽しみ方を想定した企画資料が添えられていた点も好印象でしたね。
ウサガエルス:
VR世界、特にVRChatでは某有名Vtuberの影響もあってか狐耳美少女アバターは多かったッスから、あえて少数派なタヌキでいこうぜ!という反骨精神もあったッスね。
発端となったのは一人ッスけど、みんな「これならいいね」という形で意見がまとまったッス。個人的には、もうひとつのコンセプト案として挙げられていた「邪教の巫女」もイチオシだったんスけどねー。
エーデル大首領:
それはシガラキが十分にヒットした後、ヴァリアールコラボ第二弾としてコトブキヤにご検討頂こう。我々は虎視眈々とシリーズ化を狙っているぞ。
――メカニカルなデザイン要素も強いシガラキですが、このアバターはカスタマイズも可能なのでしょうか?
飯嶋:
はい。シガラキのアバターには二つのレイヤーがあって、一つ目は外装アーマです。まず、これらを外して他の好きな外装にカスタマイズすることができます。
もう一つが腕や足で、ひじや膝から先を取り外しやすい設計になっています。これによってロボット系のゲームやフィギュアのように好きなアタッチメントを装備して遊ぶこともできます。
――コトブキヤさんの『メガミデバイス』や『フレームアームズ・ガール』みたいですね。
△KOTOBUKIYA XE STOREに展示されている『フレームアームズ・ガール「轟雷」』のデジタルフィギュア
飯嶋:
コトブキヤの製品に期待されているのはこういった改造する楽しさなのかなと思います。
「アバターちゃん」シリーズ第一弾の「店員ちゃん」を出した時からこういったお客様ニーズはあったので、シガラキではそれを反映した形ですね。
ウサガエルス:
シガラキ用のカスタマイズパーツがどんどん出てくると楽しそうッスね。バズーカとかドリルとか。パイルバンカーとか!
飯嶋:
イメージしているのはまさにそういう遊び方です。
あいにくコトブキヤからは今のところ改造パーツの用意はないですが、すでにVRで生活されている方たちが独自に展開されているアセットがございますので、改造パーツを自作したり、買い集めて組み合わせていただき、楽しんでいただけたらと思います。
――同好の士というか、先輩がいるのは安心ですね。
飯嶋:
VRで誰かと仲良くなって「楽しかったね」と言いあえたら、それは唯一無二の価値になりますよね。
アバターのデータをお届けするだけでなく、VRコミュニケーションを楽しむところまでを提供することが、今回、ヴァリアールさんとのコラボレーションで生まれた大きな価値だと考えています。さらに加えて、シガラキのコンテスト企画も開催予定です!