絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった。(後編)| クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第5回 「SSS by applibot」- 高木正文・BUNBUN・米山舞 -

絵を描くだけだったのが、ものを作るようになった。(後編)| クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書 第5回 「SSS by applibot」- 高木正文・BUNBUN・米山舞 -

「クリエイターズ・サバイバル アーティストの戦略教科書」第5回ではクリエイティブスタジオ「SSS by applibot」の代表の高木正文氏と、イラストレーターの米山舞氏、BUNBUN氏の取材をお届けする。

前編では極めて特徴的なスタジオの秘密と、それぞれのクリエイターとしてのこだわりを掘り下げた。後編では「SSS by applibot」としてデザイン協力した初のゲームタイトル『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』について伺うと共に、実際のエピソードを追う中で、作品に込められたスタジオとしての哲学を探っていく。

 

 

SSSとしての個性

―― クリエイティブスタジオ「SSS by applibot」がはじめて手掛けるタイトルとなる『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』。特徴的なビジュアルが物語っている通り、挑戦に溢れたゲームだ。

 

高木 『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』はSSSが立ち上がる前に、アプリボットに属するクリエイター組織「UNLIMITED STUDiO」(※1)が作り始めていた段階でした。ビジュアル部分が決まっていなかったので途中から参加した流れです。

 

米山 私はアートディレクターという役割で『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』に携わらせていただきました。

 

BUNBUN おおよそのキャラクターデザインは僕が担当です。ただ、設計や最終的な調整は米山さんにしてもらっています。今回はビジュアル全体の明度が低いので、映えるように逆光にしたいとか。

 

米山 さらにPALOW.さんが音ゲーに詳しくて、こういう文化があるとか、ファンはこういうのを好んできたとか的確に教えてくれましたね。

 

それらを参考にしつつ、『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』は少し尖ったキャラや、設定の近未来加減などから、サイバーパンクっぽい世界観にしてみたいなと考えて作りました。

 

▲『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』 プロモーションムービー

 

※1 UNLIMITED STUDiO。『Dance Dance Revolution』や『pop'n music』など様々な音楽ゲームを手掛けていた、ゲームプロデューサー兼ミュージックプロデューサーのNAOKI MAEDAが設立したクリエイター組織。

 

▽UNLIMITED STUDiO

https://www.unlimited-studio.jp/


―― 取り組み方が特徴的なのはクリエイターにだけ限らない。それを束ねる代表の高木さんも、一般的なマネジメント論を採用しなかったようだ。


高木 取り組んでいく中で、スタジオとして受けた仕事を僕が各メンバーに振っていくやり方だと、フリーランスでの働き方と変わらないなと思ったんです。なので、SSSとしての個性をつくるためにもそのやり方はしないようにしました。

 

作品について全員で吟味し、何が適切なのかをチームで考える。今回はみんながそういうやり方をしてくれて、自然とこういう布陣になりました。強い個性を持った人間が集まる意味をそこで一つ生み出せたと思います。

 

「UNLIMITED STUDiO」にはビジュアルの担い手がいらっしゃらず、ちょうどよく我々が加わることができました。タイミングが良かった点とスタジオの名刺になる作品が欲しかったという理由もあって、とてもいい形で参加させていただきました。

 

――『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』には、多くの音楽ゲームをプロデュースしてきた前田尚記さんがプロデューサーとして参加している。NAOKI MAEDAという名義で音楽クリエイターとしても活躍し、長く界隈を見つめてきた前田さんの存在はSSSとどんな化学反応をもたらしたのか。

 

高木 僕は元々音ゲーが好きだったので、NAOKIさんというクリエイターの存在は前から知っていました。実際にお会いすると、前田さんはとてもクリエイターらしい人柄をお持ちで、僕を含めたSSSのメンバーと相性がとても良かったです。

 

前田さんは、クリエイティブへの追求は妥協しないクリエイター気質はもちろんありますが、新しい音ゲーをつくるという大きな展望も描いておられ、プロデューサー的な視点も持ち合わせている方なんです。

 

絵作りに対して細かくコメントすることはないですが、ものすごくクリエイターをリスペクトしていらっしゃって、「UNLIMITED STUDiO」の長としてメンバーの成長は常に考えられています。クリエイター目線でチームを牽引しつつ、作品に対しては総合的なプロデュースに徹しているという感覚でしょうか。

 

米山 前田さんは、挑戦しないことが一番悪いって実際によくおっしゃるんですね。とにかく挑戦することを応援してくれます。

チームでのデザインの取り組み

―― アートディレクターとして参加する米山さんは、『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』のアートコンセプトとして「サイバーパンク」を当てはめた。

 

米山 原作の世界観がまずそういう雰囲気なのが一番ですが、作品で言うと『トロン』や『ブレードランナー』(※2)とか、ジャンルでいうとニューウェーブや、80sのカルチャーが分かりやすいかなと思い、取り入れてみました。自分自身も絵面として好きだったのもあります。

 

また、サイバーパンクをコンセプトに据えることによって、暗い背景に明るい線を引いて光らせると雰囲気が出やすいなど確立されている技法を用いることができます。作業効率を上げるため、悩んで試行錯誤する時間を少なくしたいという狙いもありました。

 

『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』はSSS全員で関わる作品ではありましたが、ひとつの作品に掛り切りにはなるのではなく、それぞれが自分の作品づくりにも取り掛かかれるようにしたかったんです。コンセプトとアートテイストを指示して、ある程度工数が省略できればいいなと思ったんですが、結構大変でしたね。

 

私達はデザインだけでなく、かなり深いところまで開発にも関わっていたので、細かなアート素材を全部用意しないといけませんでした。なので、キャラクターの立ち絵や作品に登場する楽曲のジャケットだけでなく、UIなどの細かなアート素材を監修させていただいたりしています。

 

BUNBUN 結局我々はクリエイターなので、首を絞めることがわかってても線を増やしちゃったりしちゃうんですよね。

 

SEVEN’s CODE

▲『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』の公式サイトのビジュアル。暗い背景に明るい線を描くことでサイバーパンク感を表している。

 

※2 ブレードランナー。1982年に公開された映画。デザイナーにはシド・ミード氏が起用されており、描かれるデザインは多くのクリエイターに影響を与えている。

 

―― 抜群のキャラクターデザインをすると評されたBUNBUNさん。その能力を形作る仕事への取り組み方とは。

 

BUNBUN デザインについては原作サイドと細かく擦り合わせていったのですが、今後のための作業カロリーを減らしつつ、要望におこたえし、かつキャッチーでかっこよくするのはかなり大変な作業でした。

 

特に制服は作品にとっての顔だと考えています。この衣装を見ただけであの作品だと分かるようにしたかったんです。

 

米山 BUNBUNさんは修正の対応とかもめちゃくちゃ早いんですよね。修正になっても更にボツになってもへこまずに別案やブラッシュアップ案をたくさん出すし、そういう仕事への取り組み方は見習いたいです。

 

BUNBUN やることはライトノベルの時とあまり変わっていないので、今回は僕らしさを出せたのかなと思います。基になるストーリーがあって、そこからキャラクターを読み解き、媒体によっての正解を考えながらデザインを提案する。それを10年以上やってきましたからね。

 

入ったばかりでいきなりメインキャラクターデザインをすることになって、僕は大丈夫なのかな? と思ったのですが、これまでの経験が生かせてよかったのかも知れませんね。

 

SEVEN’s CODE

▲『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』に登場するキャラクター達。上図のキャラクターデザインはBUNBUN氏が担当。黄色いエンブレムがアクセントになり、所属組織の制服の統一感が一層と増している。

 

―― アニメ業界とラノベ業界、それぞれのフィールドで活躍してきた二人は、ゲーム制作という新たな挑戦になにを感じ取っただろうか。

 

米山 まだまだゲーム業界ならではのやり方や特徴は掴みかねています。でもそれが面白い差異をつくることに繋がっているのかもしれませんね。

 

基本であるデザインをしたり、絵を描くということは変わらないので、そこは自分のいいと思うやり方で好きにやっています。

 

BUNBUN キャラクターデザインは、後の工程から逆算してデザインをすることがあるんですが、ゲームの場合、アニメほど動かすことを考えなくていいので描き込みが増えますね。

 

ゲームでも3Dと2Dでまた違いがあります。3Dの場合は、そもそも細部を描き込まないとモデルに起こした時に見栄えがしませんので情報量を増やすデザインが好まれます。2Dの場合、細部の描き込みが立ち絵やスチルとしての完成度に繋がってきますが、魅せる箇所を描き込み、一方で別の箇所を省略することもできます。どこを描き込みどこを省略するのかが、試行錯誤のポイントになってきます。

 

―― 特に思い入れのあるキャラとしてあげられた『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』の主人公である「ユイト」。そのデザインに込められた細かな意図を探る。

 

BUNBUN 毎月ストーリーが追加されるので、まだお見せできないキャラもたくさんいるのですが、やはり主人公のユイトは思い入れがありますね。

 

『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』は画面が全体的に暗いので、暗い中でも体のラインが見えるように光る素材でできた服を着せているのもポイントです。警備会社のメンバーという設定でもあるので、連なるイメージカラーとして黄色はいいアクセントになっていると思います。

 

米山 作品のなかでは「内臓」がテーマの一つになっているので、それを意識した有機的なデザインを原作サイドから求められました。例えばインナーの筋肉っぽい意匠とか肋骨のようなモチーフはそれを反映させたものになっていますし、ラインで体型を見せるやり方にはBUNBUNさんらしさも感じますね。

SEVEN’s CODE

▲ユイトの設定画

開発にまで及ぶSSSのコンセプトデザイン

―― ゲーム制作には他のクリエイティブとは大きく異なる部分があった。それがスクラップ&ビルドという進め方だ。

 

米山 『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』では作ったものを一つひとつ細かく精査するのではなく、とりあえず絵を揃えてみてからブラッシュアップをする進め方をしていました。最初は全体像が不鮮明なんですが、進めながら段々と形にしていくのはゲームならではのやり方なのかもしれません。

 

BUNBUN たしかにこうしたスクラップ&ビルド的なやり方は僕もあまり経験がありませんでした。とりあえず作ってみてあとから足りないものを足していくなんて本当にいいの?と思いながらやっていましたね(笑)

 

高木 僕はずっとゲーム会社なので、逆にスクラップ&ビルドの経験しかありませんでした。何事も一回目でうまくいくことなんてないですから、ゲーム作りは必然的にそういうやり方になるんです。僕とみんなの経験の違いはあって、その擦り合わせは熱い話し合いになりました。

 

―― 熱い話し合いが行われたのはSSS内だけではなく、開発チームとも密なやり取りが行われ、『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』の制作が進んだという。

 

米山 私たちからの提案でシステムを増やした部分もあります。たとえばマップ画面とかスキルカットインがそうです。

 

音ゲーとストーリーを絡めるのはこれまでにあまりない取り組みでした。まずは形にしてみようと作ってみたのですが、プレイしてみると演出が物足りなく感じてしまったんですね。そこで「スキルカットインは欲しいよね」となりました。でも誰かがカットインのイラストを描かないといけません(笑)そう思ったら我々は直接デザインができるので、自分たちで描こうとなりました。

 

実際、「明日までにラフ」みたいなスピードでやったのですが、それは開発に深く関われたからだと思います。

 

みんなゲーム好きだからこだわりたかったですし、その思いを開発の皆さんが信用してくれていました。結果的に立ち絵以上に描き込むことになってしまったんですが、納得いくやり方でやれたので、私たちとしても嬉しかったです。

 

BUNBUN 開発チームが同じフロアの隣の席にいたからすぐに意見を交換できたのもよかったですね。これはフリーランスだとできない働き方かもしれない。

 

高木 最初はデザインだけに関わるはずだったんですが、世界観まで手掛けようとすると、開発との話し合いが必要だったんです。密なやり取りをしながら段々近づいて、最終的には隣同士の距離感でやっていました。

 

米山 ロゴは7ZELさんが描いていますし、劇中の背景をNAJI柳田さんが描いてくれてもいます。PALOW.さんは楽曲ジャケットのディレクションもしていますし、結局全員で少しずつ関わっていますね。

 

開発とも連携をとったうえで、各自が色んな才能を発揮しているんです。

SEVEN’s CODE

▲『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』のスキルカットインのイラスト

『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』で「SSS by applibot」と共に歩む1年を

――「デザインの力で世界を震撼させる」その信念のもと立ち上がったコンセプトスタジオ「SSS by applibot」は、はじめてスタジオとして取り組む『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』によって、遂にそのベールを脱いだ。

SSS

▲高木正文氏と「SSS by applibot」

 

米山 急遽追加したスキルカットインもそうですし、楽曲ジャケットもみんなで描いています。ビジュアルの数々にぜひ注目していただき、誰がどれを描いているのか想像しながら楽しんでもらえたら嬉しいです。

 

演出についても、ゲームではなくアニメに寄せようとこだわったので、ゲームだけどアニメを見ているような気分で、今までにない音ゲーを楽しんでください。

 

BUNBUN アートの数もこだわりもものすごいので、僕の絵が嫌いな方じゃなければ楽しんでもらえると思います(笑)

 

フリープレイではなく最初に買ってもらう形にはなるんですが、この豪華なメンバーのビジュアルやアイデアが詰まっていると考えるとワンコインはむしろ安いです!

 

その昼御飯ちょっと我慢して、『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』でダイエットしてみませんか?(笑)

 

高木 『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』ではSSSのメンバーそれぞれが経験のない新しいことに取り組んでいます。スクラップ&ビルドもそうですし、描いてこなかったような細かい素材も自分で描くこともそうです。凄くうまい人をディレクションしないといけないプレッシャーとか、もはや出社がはじめてという人まで(笑)

 

それぞれの挑戦がリリースにつながったという熱量を、作品を通して感じ取っていただけると思います。

 

『SEVEN’s CODE(セブンスコード)』は一年をかけて描かれていくゲームで、最初から遊びきれるゲームではなく、永久に運営を続けていくわけでもありません。

 

だからこそ楽しめる「SSS by applibot」の1年間の奮闘を、リアルタイムで楽しんでください。

 

▼SEVEN’s CODE  公式HP

https://www.sevenscode.jp/

 

    (聞き手・取材:オグマフミヤ / 編集:いちあっぷ編集部)